ご依頼いただく理由として、必要書類を集めたり、書類に記入するのが大変というだけでなく、相続人の方の関係性によっては、公平性を担保するために第三者に任せたい、とのことでご依頼いただくケースもあるようです。
さて、金融機関で相続に伴って預貯金を払い戻す場合は、通常、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要になります。
預貯金については、不動産などと違い、数字で簡単に分けることが可能ですので、以前は判例上、それぞれの相続人が自動的に相続するとされ、自分の相続分を自由に請求することが(理論上は)可能でしたが、その後の判例変更により、遺産分割の手続きが必要となりました。つまり全員の協力が必要なのですが、居場所がわからず連絡の取れない人や、意識不明、重度の認知症の人、また遺産分割に消極的な相続人がいることもあり、すぐには協力が得られない場合があります。
この場合は、家庭裁判所で各種の手続きを取る必要がありますが、一般に時間がかかりますので、特に緊急を要する場合は、金融機関に葬儀費用などの必要費の領収証などを提示することで、任意に仮払いを受け、支払いに充てることが可能でした。しかしこれはあくまで金融機関の便宜によるものです。
そこで2020年4月から施行された改正相続法で、民法に「遺産の分割前における預貯金債権の行使」という制度が明記されました(民法第909条の2)。
この制度を利用すれば、ひとつの金融機関につき、預貯金の3分の1×法定相続分を、単独で引き出すことが出来ます(ただし、政令で定められた額として現在は上限150万円)。なおこれは、あくまで「仮払い」であるため、その後の遺産分割協議の内容によっては、他の相続人に返還するなどして精算する必要があります。
この新しい仮払いは領収証等を提示するなどの必要がなく、使途が限定されていないので、従前の仮払いよりも使いやすいと思います。ご相続によっては「数十年会っていない、または一度も会った事がない」という方が相続人であるケースもあります。そういう場合は見つけるのが困難なだけでなく、心情的なもつれから手続きへの協力に消極的であることも考えられますので、余裕がない場合はこちらの新しい制度の方をぜひ活用してください(まだ新しい制度ですので、金融機関の窓口で「相続の仮払い」というと、従前の制度を説明される可能性もありますのでご注意ください)。
なお、この制度を利用する際の代理人の委任状には、「民法909条の2に定める遺産の分割前における預貯金債権の行使に関する件」など、入れた方が良いようです(郵便局さんの話)。