農業委員とは、「農業委員会」を構成する委員で、農業委員会とは農地に関する許可申請の審査を行ったり、農政に関し自治体等に対して提言等を行う機関です。いわば農業者の利益を代表する機関とも言えます。
また農業委員会は行政から独立しており、政治的中立性を持っています。このような組織を行政委員会といいますが、市町村などの基礎自治体レベルでは、ほかに教育委員会や固定資産評価委員会というのがあります(なお身分は非常勤の地方公務員となります)。
中立委員としての行政書士
農業委員会は農業の専門機関ですので、構成員は農家や農業関係者で占められているケースがほとんどですが、私の場合は、農業を行っていない「中立委員」という立場です。平成29年の法改正で、委員の中に農業委員会の所掌事務に利害関係のない人(中立委員)を必ず置くことになりました(農業委員会等に関する法律 第8条6項)。
中立委員は別に何かの資格者でなくてもよいのですが、やはり農業に関して全く知見を有しない人ではなかなかうまくいきませんので、行政書士、司法書士などの農地や不動産に関する法律に関し詳しい職業の人が選ばれているようです。

農業委員徽章。紐がついて議員バッチのようですが、議員です。
行政書士業務は利害関係者にならない?
農業委員になってみて、少し戸惑っているのが、自分が代理人として申請者になった場合のことです。そもそも「自分が所属する農業委員会に申請する依頼を受けて良いのか」という疑問がありますが、これについて特に制限はされていないようです。なお、農業委員会の総本山、全国農業会議でも、「転用申請等の手続を業務としておこない得ることだけをもって一 律、『利害関係を有する』とはいえないと考えます。 」という立場を取っていますが、自主的に任期中は受任しない方針を取っている行政書士もいます。
うちは、相続や賃貸借契約などの関連で農地関係の業務がある場合は、有償であることを説明して依頼して頂いていますが、やりづらいのは事実です。
なお、自分が代理人として申請したものについて審議されるときは、一時退席し、審議に加わらないような運用になっています。
議員としての農業委員
農業委員は、会議で自由に発言をすることが許されており、農政や運用についてどんどん議題、議案として上程できます。これは本当にやりがいを感じる部分で、これまで行政書士として運用を変えて欲しいところをずっと訴えて来ましたので、事務局にも促されさっそく提案しました。
例えば、農地法第3条に「下限面積」(別段面積)の定め、というのがあるのですが(令和5年に廃止予定)、これは農地を誰かに売る時、買う側は「すでに持っている農地と、買って増える農地の面積を合わせて一定の面積以上にならなければならない」というルールです(この下限面積を満たさないと許可が出ません)。この面積は、福島県では通常50a以上とされていますが、各農業委員会の決定で緩和することが出来るので、金山町は30a以上となっています。
普段はこれでいいのですが、例えば町では「空き家バンク」を開設し、空き家の取引を促して移住者を増やそうという政策を進めています。空き家には敷地の重要な部分にほんの少し農地がくっついている場合があり、また「家だけでなく田畑も一緒に貰ってほしい」という声は多いです。
しかし空き家を購入する人は、農業をやりたい人だけではなく、またやったとしても家庭菜園程度でいいという人が多いのですが、現行のルールだと30a以上所有しなければならないため、金山町の空き家を購入できるのは、実質的に金山町内の農家だけという事になります。
しかしこれでは、町外からの移住者の受け入れ促進という空き家バンクの趣旨に反するという事で、「空き家バンクに登録した建物に付帯する農地については、農業委員会で一筆ごとに指定するものに限り、下限面積を0.1aとする」という、大幅な緩和を提案しました。さらに、「空き家問題は喫緊の課題であるので、可及的速やかに施行、実施すべきである」旨を合わせて提案したところ、これも各委員のご賛同をいただいて、提案の翌々月からスピード施行されることとなりました。
実はこの提案は、農業委員になる前から度々農業委員会の事務局には検討をお願いしていた部分なのですが、農家の方に重要性を実感していただくことが難しく、なかなか採用されませんでした。しかし中に入って提案すれば、すんなりと動くのです。
農業委員会での行政書士の役割
前述の通り、農業委員の大半は経営者である農家ですので、補助金や交付金のシステムなどにはかなり精通している方が多い反面、当然ながら、農地法や民法その他の法律についてはほとんど知らない方ばかりです(必ずしも委員になるために必要な知識とはされていませんが)。
しかし、農業関連法を含む幅広い行政手続きの専門家、実務家が会議に加わることで、より深い議論、提案、問題点の指摘ができ、また高度な職業倫理が要求される士業は、審査に関して公正公平なジャッジが期待できる上、特に行政書士は全国津々浦々に存在するので、ほかに中立委員として例示されたどの職業よりも適任であると思います。
農業委員会の総会は、町の議会と同様に傍聴することが出来ます。金山町では毎月20日ごろの午前中に開催されますので、ぜひ一度傍聴にお越しください(議事録もインターネットで公開されています)。