一般的に、「存在しないことの証明」についてなど、立証が非常に困難な証明を「悪魔の証明」と呼んだりします。
 「存在することの証明」は、たった一個だけ例を挙げればそれで済みますが、存在しないことを完全に証明するのは、この世のすべての例をあげて立証しなければならず、事実上不可能でしょう。
 しかし、公的な手続きの場面においては、この「ないことの証明」というのをよく求められます。
 法人設立や許認可申請の際、役員には多くの場合で欠格事由というのがあり、一定の事由に該当する場合は役員となることが出来ません。よってその事由の不存在を証明する必要があります(求められる証明はすごく簡単なので、別に悪魔の証明でもなんでもないのですが)。
 なお、これらの証明は、一定の日においての不存在を証明するものですので、そのあとに存在したものについては証明できません。


(1)登記されていないことの証明
 成年被後見人等ではないことの証明です。一部の法務局で取得できます。成年被後見人等になると登記されるので、これらの登記の不存在を証明することにより、成年被後見人などではないことを証明します。
 なおこの証明は、成年後見制度が出来た「平成12年4月以降に登記されていないことの証明」ですので、それ以前に生まれた方は、これに加えて次の「身分証明書」も必要です。

(2)破産者ではないことの証明
 本籍がある市町村役場で、「身分証明書」を取得することで証明できます。裁判所で破産手続き開始の決定(いわゆる破産宣告)を受けると、原則として本籍地の市町村役場に通知され、破産者名簿に登載されます(破産法)。これはそこに名前がないことの証明になります。
 なお成年後見制度ができる前の「禁治産者」等の記録については市町村役場で管理しており、禁治産者等の非該当性については、この証明書に記載されます。
   
(3)未納の税がないことの証明
 税務署または都道府県税事務所で「納税証明書」を取得します。そこに未納の税額が表示されていますので、それが0円なら、「税の未納はないことの証明」ということになります。

(4)交通違反歴等がないことの証明書
 自動車安全運転センターで取得できます。過去の無事故、無違反を証明できます。
 なお法人の役員になるためには、「禁固以上の刑に処せられ、一定の期間が経過していない」場合等は制限を受けますが、近い過去に重大な事故を起こしていた場合は、これに該当する可能性も考えられます。

(5)暴力団等の関係者ではないことの証明

 これが公的に簡単に証明出来るものがあったらいいな、と思っているのですが、高度な個人情報ゆえ、請求のハードルは高くなっています。
 証明する方法としては、誓約書や賞罰欄のある履歴書を提出するか、契約書の中で無関係であること表明するという「自己証明」が一般的です。
 これらの証明書の内容が事実に反する場合は、許可等の取り消し若しくは処罰を受け、又は契約の解除および損害賠償の請求等のペナルティを置くことによって、なんとか真実性を担保しているのが現状です。

(6)相続分がないことの証明書
 ここまでのものと少し趣旨が違うものを一つ。
 遺産分割の場面で、「事実上の相続放棄」をするための方法として使われています。
 民法では、被相続人から生前贈与など特別な利益を受けている場合は、それを考慮して相続分を計算することになっており、そのため実際の相続分がゼロになる場合があります。
 これを利用して、相続分を貰い受ける意思がない場合に、「贈与を受けているので自分には相続分がありません」という内容の証明書を作成し、特に相続登記などで使われています。
 他の相続人との協議や、同意、また特別な手続きが要らないため、少し古い相続では遺産分割協議書よりも使われている印象があります。