building_saibansyo_katei
 相続に関するご相談を伺っていますと、相続人の中に、物事を判断する「意思能力」に疑いがあったり、あるいは全くない人が含まれているケースがたまにあります。

 契約などの法律行為を行うためには意思能力が必要です。遺産分割協議も相続人同士の一種の契約ですので、これを行うには意思能力が必要です。また、意思能力がないからと言って、その方を協議に入れないわけにはいきません。お一人でも排除して行った遺産分割協議は無効(=法的効力がない)です。

 さて、意思能力の全くない成人の方(重度の知的障害や認知症、意識不明の人など)が相続人にいる場合はどうしたらよいのでしょう。教科書的、一般的な回答だと、家庭裁判所に「後見の申し立て」を行って成年後見人を選任してもらい、その人に遺産分割協議に参加してもらう、ことだと思います。

 先日、手続きの前提として相続が必要な場面があり、その時、相続人の一人に意思能力がない方がおられました。ベテランの司法書士の方と打合せしたところ、「成年後見人による遺産分割協議ではなくて、遺産分割調停を行いましょう。その際に、そのためだけの特別代理人を選任してもらいましょう」という話になりました。果たしてそんなこと出来るのでしょうか。

 「特別代理人」の定めは家事事件手続法と民事訴訟法にあります。
 家事事件手続法第19条によれば、「裁判長は、未成年者又は成年被後見人について、法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、家事事件の手続が遅滞することにより損害が生ずるおそれがあるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、特別代理人を選任することができる。」とあります(民事訴訟法第35条もほぼ同文)。

 条文だけ素直に読むと、この対象は未成年者と「成年被後見人」です。つまり「意思能力がないだけでなく後見開始の審判を受けていること」が必要であるように読めます。
 しかし、他の司法書士さんによれば、過去に民事訴訟で他の相続人を相手に時効取得を主張した事例で、認知症の相続人がいるが、親族等による後見申し立てを期待できないため、特別代理人の選任を申し立てたところ問題なく通った経験があるとの話を聞きました。その時は特別代理人を弁護士に依頼し、期日に不知の主張をしてもらうだけだったそうですが(報酬も聞きましたが、意外に安かったです)。

 実務では(症状が明らかな場合は?)成年後見申し立てを前提にせずとも特別代理人が選任されるケースもあるようですね。これだと負担が軽く、速やかに手続きが出来ますね。
 
 なお、成年後見人や特別代理人は原則として本人の法定相続分は確保しなければなりません(「一切放棄する」というようなことをしない)ので、第三者が入る分、思い描いていた分割の方法とはならない可能性もあります。